大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 平成2年(行ウ)5号 判決

原告

大山七郎

右訴訟代理人弁護士

久保田謙治

被告

金子政美

右訴訟代理人弁護士

長谷川恒弘

主文

一  被告は千代田村に対し、二六四万二六〇〇円及びこれに対する平成元年五月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

主文第一、第二項同旨及び仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

(本案前―財務規則一一九条に違反した内容の契約を締結した点を違法と主張する訴えに対して)

本件訴えを却下する。

(本案)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、千代田村の住民であり、被告は、昭和五九年三月以降千代田村の村長である。

2  被告は、千代田村長として、昭和六三年一二月一七日木村建設有限会社(以下「木村建設」という。)との間で、木村建設が次のとおりの内容の建設工事(以下「本件工事」という。)を行なう請負契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(一) 工事名 六三国補準河第一号一工区河川改修工事

(二) 工事場所 準用河川飯田川新治郡千代田村大字下土田

(三) 工期 昭和六三年一二月一八日から昭和六四年三月一七日までの九〇日間

(四) 請負代金額 一八一〇万円

3  木村建設は、本件契約の工期についての約定に違反し、平成元年五月二九日以降に本件工事を完成した。

4  被告が木村建設の右工事遅延につき同社から遅延損害金を徴収しないこと、あるいはこれを徴収できないようにしたことは、以下の理由により違法である。

なお、千代田村財務規則(以下単に「財務規則」という。)一一九条は次のとおり規定している。

(1) 契約権者は、契約の相手方がその履行を遅延したときは、遅延日数一日につき契約金額の一〇〇〇分の二に相当する額を遅延利息として徴収するものとする。

(2) 契約権者は、契約の相手方が、天災その他の不可抗力により契約の履行を遅延するおそれがあるときは、契約履行延期申請書に基づき履行期限を延長することができる。

(一) 本件契約書三七条には、『①乙(請負業者)の責に帰すべき理由により工期内に工事を完成する事が出来ない場合において、工期経過後相当の期間内に完成する見込みがあるときは、甲(千代田村)は乙から損害金を徴収して工期を延長することが出来る。

② 前項の損害金の額は、請負代金額から出来形部分に相当する請負代金額を控除した額につき、遅延日数に応じ、年 %の割合で計算した額とする。』と記載されており、遅延損害金の料率の欄が空欄になっているが、契約当事者は、財務規則一一九条を当然の前提として本件契約を締結したことが明らかであるから、千代田村は本件契約書の右記載にかかわらず、木村建設から財務規則に従った遅延損害金を徴収できるのである。

従って、被告が千代田村長として、右損害金の徴収をしないのは違法である。

(二) 仮に、本件契約において、財務規則に従った遅延損害金徴収の合意が認められない場合は、被告は、右規則に違反して遅延損害金徴収の合意をせず、その結果遅延損害金の徴収権を消滅させたものである。

従って、被告が遅延損害金の徴収権を消滅させたのは違法である。

5  被告は、違法に、右4の遅延損害金の徴収をせず、又はその徴収権を消滅させたことについて、故意又は過失があった。

6  被告が右のとおり、遅延損害金の徴収を怠り、もしくはその徴収権を消滅させたため、千代田村は少なくとも平成元年三月一八日から同年五月二九日まで七三日間分の財務規則一一九条に従った損害金二六四万二六〇〇円及びこれに対する工事完成の翌日である同年五月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金相当額の損害を受けた。

18,100,000×2/1,000×73=2,642,600

7  原告は、平成元年一一月二一日、被告の右行為につき次のとおりの監査請求(但し、本件訴訟に関する請求のみ)をしたが、監査委員は平成二年一月二二日(同月二〇日付)原告に対し、木村建設に対する遅延損害金の徴収はできないという内容の監査結果を通知した。

会計年度を超えた六月三日の時点でも工事が未完成であったにもかかわらず五月二九日に竣工届を出し五月三〇日に工事代金の支払いを受けたことは木村建設の元代表取締役であった木村佐氏(現村議会議員)の職務権限の乱用であり許されざる行為であるので千代田村財務規則一一九条の規定により違約金の徴収及び地方自治法施行令一六七条の四の規定により入札資格取消しの措置

措置要求 違約金の徴収と指名停止処分

8  よって、原告は、地方自治法二四二条の二第一項四号により、千代田村に代位して、被告に対し、損害金二六四万二六〇〇円及びこれに対する平成元年五月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告の本案前の主張(請求原因4(二)の主張に対して)

本件訴訟に先立ち原告のした監査請求の内容は、本件契約には工事が遅延した場合の損害金徴収の約定があるにもかかわらず、それに従った損害金の徴収をせず千代田村に損害を与えたというものであるところ、原告が請求原因4(二)で主張する違法事由はこれと同一性が認められないから、右主張を前提とする本件訴えは監査請求を経ていない不適法なものである。

三  本案前の主張に対する原告の反論

原告の監査請求は、前記のとおり、本件工事が遅延しているにもかかわらず、損害金を徴収しないことが財務規則一一九条の規定に違反することをその内容としているのであって、本件契約に遅延損害金の約定がある場合に限定しているものではないから、請求原因4(二)の主張にかかる訴えについても監査請求を経ていることは明らかである。

四  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3ないし6の事実は否認する。

3  同7の事実は認める。

4  同8は争う。

五  被告の本案の主張

1  請求原因4(一)の違法事由の主張について

本件契約には工事遅延の場合の遅延損害金徴収の合意はなく、財務規則は千代田村内部の事務処理規則にすぎないから、右規則一一九条だけで木村建設に遅延損害金を請求する権利はない。

従って、被告が木村建設から遅延損害金を徴収しないことは何ら違法ではない。

2  被告の責任について

千代田村においては、従前財務規則一一九条に従った内容の記載のある契約書を使用していたが、茨城県から右契約書の条項が簡素すぎるとの指導を受けたことから昭和六二年四月より本件契約書と同一様式の契約書を使用することになったところ、従前の契約書には遅延損害金の料率が不動文字で記載されていたにもかかわらず、本件契約書では、右料率のみを書き込む形式であったため、これを見落として書き込みを忘れ、本件契約を締結したものである。

普通地方公共団体の長は、多数の決裁書類を処理する必要があり、すべての書類に目を通すことは不可能であるため、本件契約書のような書類は担当職員において誤りがないか否か検討したうえ長に提出される仕組みになっており、本件のような見落しは関与職員すべての過失によるもので、長たる被告のみの過失によるものではないから、このような場合に長のみに多額の賠償を要求することは酷であり、地方自治法二四二条の二第一項四号には該当しないものと解するべきである。

3  千代田村の損害について

(一) 本件工事の遅延は、財務規則一一九条二項の「天災その他の不可抗力」もしくはこれに準ずる場合に該当するから、木村建設には遅延損害金支払義務はなく、千代田村にも損害はない。

すなわち、本件工事は河川改修工事であるところ、契約期間中は一か月の内半分又は三分の一の日数が雨で、河川が増水して工事が不可能であったため遅延したものであり、右は天災その他の不可抗力もしくはこれに準ずる場合に該当するものである。

(二) 本件工事自体は完成しており、不備もないから、千代田村に実質的な損害は発生していない。

六  本案の主張に対する原告の認否

いずれも争う。

第三  当事者の提出、援用した証拠〈省略〉

理由

一請求原因1(当事者)、2(本件契約の締結)及び7(監査請求)の事実はいずれも当事者間に争いがなく、証拠(〈書証番号略〉、証人坂本整治、被告本人)によれば、本件工事が完成したのは早くとも平成元年五月二九日であること(請求原因3)が認められ、右認定に反する証拠はない。

二そこで、原告主張の違法事由について検討する。

1  〈書証番号略〉によれば、財務規則一一九条には原告主張のとおりの記載があることが認められる。

2  そこで、まず、本件契約に遅延損害金徴収の合意があることを前提とする主張について、その当否を検討する。

〈書証番号略〉(本件契約書)によれば、本件契約書三七条には、原告が請求原因4(一)で主張する条項が記載されていることが認められるが、右条項においては遅延損害金の料率の記載がなく、右条項のみで木村建設に対し、遅延損害金を請求することができないことは明らかであり、他に本件契約書には原告主張の遅延損害金徴収を根拠づける条項は見あたらない。

原告は、契約書に遅延損害金の料率の記載がなくても、契約当事者は財務規則一一九条を前提に契約しているのであるから、本件契約には右規則一一九条と同一内容の合意がある旨主張する。しかしながら、地方自治法二三四条五項が、契約書を作成する場合、契約当事者が契約書に記名押印しなければ当該契約は確定しない旨規定している趣旨からすると、契約書を作成した場合には原則として当該契約書に記載のない合意を認めるのは困難であるというべきであり、他に右合意を認めるに足りる証拠はない。

従って、本件契約に遅延損害金徴収の合意があることを前提とする原告の主張は失当である。

3  次に、本件契約において財務規則一一九条に従った遅延損害金徴収の合意をしなかったことが違法であるとの主張について判断する。

(一)  被告は、右の点は監査請求を経ていないから不適法な訴えである旨主張する。

ところで、監査請求前置は、監査請求の対象とした行為又は怠る事実と住民訴訟において審理の対象となる行為又は怠る事実との間に同一性があることを要求するものであって、当該行為又は当該怠る事実の個々の違法事由について監査委員の判断を経たことを要求するものではない。

さらに、監査請求前置の要件を充足するためには、監査請求の対象とされた行為又は事実と住民訴訟の対象とするそれとが同一でなければならないのが原則であるが、もし住民訴訟の対象とされている行為又は事実が違法であれば、それについても住民訴訟に先立つ監査請求に基づく監査により当然に必要な措置が勧告されるべきであった場合、又は措置が講ぜられればその行為又は事実に至らなかったであろう場合には、これらの行為又は事実についても既に監査請求手続を経由したものとして取り扱うべきであるから、この範囲で監査請求の対象と住民訴訟の対象とが異なってもよく、具体的には、監査請求の対象となった行為又は事実と住民訴訟の対象となった行為又は事実とが密接な関連を有する場合であるとか、また住民訴訟の対象となった行為又は事実が監査請求にかかる行為又は事実から派生し又はこれを前提として後続することが当然に予測される行為又は事実である場合などには、これらの行為又は事実を住民訴訟の対象とすることができると解するべきである。

そこで、これを本件についてみると、前記認定にかかる原告の監査請求の内容は、木村建設が本件工事を遅延したことに対し、財務規則一一九条に従った違約金の徴収を行なうべきであるというものであって、その審理の対象は本件工事の遅延という点で本件訴訟の対象と同一であるうえ、その請求の趣旨は、結局、本件工事遅延につき右規則に従った措置を求めているのであるから、本件契約に財務規則に従った合意がない場合は本件契約締結手続において右規則に従った遅延損害金徴収の合意をしなかった違法をもあわせてその対象としていると解しえないことはなく(仮に右の違法は明確には監査請求の対象とはしていないとしても、少なくとも監査請求の対象となった事実と密接に関連する事実ないし対象となった事実から派生する事実であることは明らかである。)、前記の監査請求前置主義の趣旨に鑑みると、右の点についても監査請求を経たものと解するのが相当である。

被告の右主張は採用できない。

(二)  そこで、原告の右違法の主張の当否について判断する。

(1) 前記認定事実及び証拠(〈書証番号略〉、証人豊崎肇、同坂本整治、被告本人、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実が認められる。

(ア) 千代田村は、本件工事を実施するにあたり、設計業者による工期、請負金額等の見積りを経たうえ、指名競争入札の方法で業者選定を行なって木村建設を請負業者に決定し、本件契約を締結した。

なお、本件の改修工事は、本件工事の工区以外にもう一工区あり、その工区の請負業者は同様の入札の方法で石岡市所在の長谷川工務店に決まったが、同工事も本件工事と同一規模のもので、工期も同一期間であった。

(イ) 千代田村の工事請負契約書の様式は、昭和六二年三月三一日までは一枚だけの用紙の簡単なものであったが、同契約書一〇条には財務規則一一九条の規定に添う内容の条項が不動文字で印刷されていた。

ところが、茨城県から右契約書では契約条項が簡単すぎて問題が生じやすい旨指摘されたことから、千代田村においては昭和六二年四月一日以降平成元年三月三一日まで本件契約書と同一様式の契約書を使用するようになったが、同契約書では前記のとおり、遅延損害金算定の基準が財務規則一一九条(契約金額)と異なり、「請負代金額から出来形部分に相当する請負代金額を控除した額」とされており、損害金の料率欄は印刷されず空欄のままで書き込む形式となっていた。そして、平成元年四月一日以降になってようやく財務規則一一九条の内容に添う損害金の条項のある工事請負契約書が用いられるようになった。

本件契約締結にあたっては、契約書は村長の被告が決裁をして被告の記名押印をさせる前に少なくとも財務課長、総務課長が決裁しているにもかかわらず、誰も遅延損害金徴収の条項の料率の記載が漏れていることに気づかず、本件契約書が作成された。

(ウ) 本件工事の工期の始期は、昭和六三年一二月一八日であるが、木村建設が実際に工事に着工したのは平成元年一月二五日頃であった(木村建設作成の工程表では準備工は昭和六三年一二月一八日から同月二八日までであって、平成元年一月八日から仮設工事に着工する予定となっている。)。なお、右工事の着工の遅れを正当化する理由は特段見あたらない。

右のように、工事着工が遅れたことから、千代田村では、年度末の工事でもあるので繰越明許の手続を執る必要があるかどうか確認するため、平成元年二月一〇頃、木村建設の代表者(坂本整治)を役場に呼び、村長である被告が工事が工期内に完了するかどうか確認したところ、木村建設は工期内の完成を確約した。そこで、その後は千代田村では数回木村建設に工事の督促をしたり、平成元年三月一七日から同月三一日までの工期延期手続(但し、右期間の損害金は徴収していない。)をしたりしたが、結局繰越明許の手続は執らなかった。

(エ) 前記のとおり、本件工事完成は早くとも平成元年五月二九日であるが、千代田村には平成元年三月一七日に本件工事が完成したという内容の木村建設作成の工事完成通知書が提出されている。

木村建設は、本件工事遅延の理由として、工期中の降雨日数が多く、河川が増水して工事ができない日が多かったり、地盤が緩んで余計な作業が増えたことなどを主張している。

(オ) 本件工事の工区及び長谷川工務店担当の工区に引き続いた上流の河川改修工事が佐々木建設株式会社(以下「佐々木建設」という。)により平成元年一一月二三日から平成二年三月二九日までの工期で施工されたが、右工事は仮排水の方法を工夫するなどして雨の影響を回避し、工期内に完成した。

(カ) 新治郡千代田村大字上土田五〇一における千代田消防署の記録によれば、本件工事及び佐々木建設による右工事の工期中の降雨日数は次のとおりである。

(a) 本件工事

①昭和六三年一二月一八日から同月三一日      〇日  〇時間

②昭和六四年一月一日から平成元年一月三一日    八日 五五時間

③ 平成元年二月一日から同月二八日      一四日 一一九時間

④ 平成元年三月一日から同月三一日      一四日 一一一時間

⑤ 合計  三六日 二八五時間

(b) 佐々木建設による工事

①平成元年一一月二三日から同月三〇日       一日  三時間

②平成元年一二月一日から同月三一日        六日 四八時間

③平成二年一月一日から同月三一日

七日 六六時間

④平成二年二月一日から同月二八日

八日 八〇時間

⑤平成二年三月一日から同月二九日

一〇日 五九時間

⑥合計 三二日 二五六時間

また、つくば市所在の高層気象台気象記録によれば、本件工事及び佐々木建設による右工事の工期中の降雨日数(雪も含む)及び降水量は次のとおりである。

(a) 本件工事

①平成元年一月一日から同月三一日

降雨日数五日、降水量60.5ミリメートル(平年42.4ミリメートル)

②平成元年二月一日から同月二八日

降雨日数一二日、降水量130.0ミリメートル(平年50.3ミリメートル)

(b) 佐々木建設による工事

①平成二年一月一日から同月三一日

降雨日数七日、降水量29.0ミリメートル(平年42.4ミリメートル)

②平成二年二月一日から同月二八日

降雨日数一五日、降水量99.0ミリメートル(平年50.3ミリメートル)

なお、本件工事の工期中、本件工事現場付近で降雨による自然災害が生じた事実はない。

(キ) 本件工事遅延に関しては、被告及び収入役に減俸処分、関係課長に戒告処分、木村建設に対しては三か月の指名停止処分がそれぞれされたが、木村建設から遅延損害金は徴収されていない。

(2) 右認定の事実を前提に原告主張の違法事由につき検討するに、財務規則は地方自治法一五条一項に従って地方公共団体の長が定める内部規律ではあるが、地方公共団体の長といえども当然これを遵守する義務があるうえ、財務規則一一九条のような遅延損害金徴収規定は「政府契約の支払遅延防止等に関する法律」四条三号(同法一四条で地方公共団体に準用)などの規定を受けて設けられているものであるから、地方公共団体の長としては、その契約締結にあたり、事情のいかんにかかわらず、右規則に従った条項を合意する義務があるものと解すべきところ、右認定のとおり本件契約においては右規則に従った合意がされていないのであるから、これが違法であることは明らかである。

三次に、被告の責任について判断する。

前記のとおり、被告は財務規則一一九条に従い、本件契約において遅延損害金徴収の合意をするべき義務があるところ、本件契約書の遅延損害金徴収条項の損害金算定基準が右規則と異なり、しかも損害金の料率の欄が空欄になっているにもかかわらず、それに気づかず、右空欄を補充することなく本件契約を締結したというのであるから、右損害金徴収の合意をしなかったことについては契約締結権者である村長たる被告に重大な過失があったものというべきである。

被告は、右空欄補充を忘れた点は、他の関与職員にも責任があり、被告のみに賠償を求めることは酷であるから、本件のような場合、地方自治法二四二条の二第一項四号に該当しない旨主張する。

しかしながら、普通地方公共団体の長は、当該地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他公共団体の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し及び執行する義務を負い(地方自治法一三八条の二)、予算についてその調製権、議会提出権、付再議権、原案執行権及び執行状況調査権等広範な権限を有するものであって(同法一七六条、一七七条、二一一条、二一八条、二二一条)、その職責に鑑みると、普通地方公共団体の長の行為による賠償については、他の職員と異なる取扱いをされることもやむをえないものであり、本件のように普通地方公共団体の長に民法上の不法行為責任が認められる場合にその責任を軽減すべき根拠はないものといわなければならない。

四最後に、損害について判断する。

前記認定事実によれば、被告が千代田村の村長として、本件契約において遅延損害金徴収の合意をしていれば、千代田村は右合意に従い、木村建設から工期の終期の翌日である平成元年三月一八日から工事完成日の同年五月二九日まで七三日間分の遅延損害金を工事完成の翌日である同年五月三〇日に徴収することが可能であったというべきであるから(本件において、右徴収を行なわない取扱いをすることについて地方自治法令上の根拠は見あたらない。)、千代田村は被告の違法な行為により右七三日間分の損害金とこれに対する平成元年五月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金相当額の損害を受けたものというべきである。

被告は、本件工事が完成しており、不備もないので、千代田村に実損はない旨主張するが、本件のような遅延損害金徴収条項はいわゆる「損害賠償額の予定」を意味し、実際に損害が発生していないことを立証しても相手方は賠償義務を免れないものと解されるから、被告の右主張は採用できない。

また、被告は、本件工期中は降雨日数が多く、河川改修工事の特殊性を考慮すると、財務規則一一九条二項の「不可抗力」もしくはこれに準ずる場合に該当し損害金を徴収できない旨主張する。なるほど、前記認定事実によれば、本件工事の工期中例年に比較して降雨日数や降水量が多かったことは認められるものの、他方、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、工事期間中一定量の雨が降ることは当然当初の設計段階から予測されているはずであること、本件工事期間中の降雨も特に災害が生じるなど異常なものとまでは認められないこと、本件工事と同じ河川の改修工事である佐々木建設による工事の工期中も例年より雨量が多いにもかかわらず、工法を工夫するなどして工期内に工事を完成していること、本件工事においては、そもそも木村建設が予定より大幅に遅れて工事に着工したことが工事完成の遅延に大きく影響しているものと考えられることが認められるのであって、これらの事実からすると、本件工事の遅延が財務規則一一九条二項にいう「天災その他の不可抗力」やこれに準ずる場合に該当すると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

そして、千代田村の受けた損害は、財務規則一一九条に従って計算すると、原告主張のとおり二六四万二六〇〇円及びこれに対する平成元年五月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による金員相当額となる。

五以上認定、説示したとおり、原告の本件代位請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する(なお、仮執行の宣言は不相当であるからこれを付さないこととする。)。

(裁判長裁判官矢崎秀一 裁判官山﨑まさよ 裁判官神山隆一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例